1000Hit記念フリーSSです。
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ハ セ ヲ の 災 難 ー ピ ク ニ ッ ク へ 行 こ う ー
「ハセヲ…口、開けて…」
いや、無理。
「ほら…もっとだよ。ちゃんと開けないとこぼれちゃうよ」
だから無理だって…!
先程から強要されているその行為にキレかけ寸前の俺は口を半開きにしたまま青筋を立てている。
が、そんな事はお構い無しにこいつ、エンデュランスは俺にそれを押し付け続ける。
「それ」は何かって…?
それは、何故かこの『The World』に存在しないはずの。
玉子焼き。だった……。
「ハセヲ、もしかして玉子焼き嫌いなの…?」
晴れたフィールドにはPCはおろかモンスターもいない。
大樹の下に、これも存在するはずがないピクニックシートを敷いて俺達は弁当を食べていた。
実際食べるといっても本当に食べるわけではないのだが、無理矢理口に押し込もうとする行為は中々腹立たしい。
「っていうか!!!」
急にキレて叫んだ俺をエンデュランスはきょとんとした表情で見つめている。
「急に、どうしたの……?やっぱり玉子焼き、嫌いだった?」
あくまで玉子焼きに拘る男を睨み付け、俺は溜め息をついた。
「…そうじゃなくて」
「これ、どう見てもチートだろ。どこから持ってきた」
「欅が、くれた…」
返ってきた内容はそんなとんでもないものだった。
「………」
「………」
「何考えてるんだ、欅は…」
「メールが着たんだ……ハセヲが喜ぶと思って…場所も彼が用意してくれた…」
ますます欅の意図が掴めない。
考え込んでいる俺にエンデュランスが抱きついてきた。
「もらっちゃ、駄目だった…?」
「う…」
その顔は止めろ。
悲しそうに目を伏せて、淋しげに呟くのは卑怯だ。
「……今回だけだぞ」
どうせ、観察日記みたいなものつけられてるんだ。
今更場所を移動したってすぐに見つかるのだから。
「ハセヲ……!」
ぱあっと表情を明るくしたエンデュランスが顔を寄せてキスを仕掛けてくる。
が、寸でのところで食い止めた。
見られてるのにできるかっ!!
「今日はそういうの、無しだ」
そう言った瞬間にショートメールが届く。
「…このタイミングで届けられたということは……」
恐る恐るそれを開くと、予想通り差出人は欅からだった。
『もしかして、ピクニック気に入りませんでした?
安心してください。このフィールドは誰も入れないように封鎖してありますから、思う存分楽しんでくださいね♪』
安心も何も、お前が見てるって解ってるのに楽しむも何もねぇ!!
何だよ楽しむって!!何期待してやがんだ、あの野郎!!!!
「…ハセヲ……」
不意に呼ばれて口付けられた。
こいつはさっき俺が言った言葉を理解していなかったのか?!それとも聞いたふりをして聞いていなかったのか?!
さっき言ったよな?「そういうの、無し」って。
なのに。
なのに。なんでこいつは俺にキスしてんだ。
しかも…舌まで入れやがってっ。
「ハセヲ…ハセヲ……」
猫のように甘えてくるエンデュランスを引き剥がし、欅にショートメールを打つ。
『何のつもりだ。
エンデュランスに余計な事吹き込むな』
返事はすぐに返ってきた。
『あはっ♪ハセヲさん照れちゃってるんですか。
可愛いですね〜。僕は良かれと思ってやっただけんですが、気に入って貰えませんでしたか。残念。
今度お詫びに別のシュチュエーションをご用意しますね♪』
「ふざけんなっ!」
何がシュチュエーションだ。やっぱり観察が目的だったんじゃねぇか。
「ハセヲ、さっきからどうしたの?」
何も知らないエンデュランスは頭を撫でながら俺の体を引き寄せた。
…そうそう。俺が機嫌悪い時はこいつ絶対こうするんだよな。
まあ、それで機嫌直す俺も単純なんだけど……って違うだろ俺!!
何で恋人といちゃついてる所を見せなきゃならないんだ。
見せられるのも嫌だけど、見られるのも嫌だ。
「離せっ!」
思ったより力が入りすぎてしまったのか、エンデュランスは軽くよろめいた。
「ハセヲ…ボクといるの……嫌なの…?」
あ。
まずい。
泣きそうな顔してる。
この顔は、本格的に傷ついた顔だ。
「あ、ごめ…」
そう言って頬に触れようと手を伸ばしたが、その手は軽く払われてしまう。
そのままエンデュランスはそっぽをむいてしまった。
あ〜あ。拗ねちまった。
どうしてくれるんだよ、欅。
こうなると謝っても機嫌直らないんだぞ。
「なぁ、エンデュランス…」
返事はない。
「悪かったよ…」
困った…。
「なぁ、こっち向けってば」
「………」
「エンデュランス…?」
「…ヲが…」
「え?なに?」
漸く機嫌が直ったのかチラリと俺を盗み見るエンデュランスに俺は身を乗り出す。
「ハセヲが、キスして好きって言ってくれたら…いいよ」
な。
なんだと……!!!!
「…いつも、してくれるみたいに……」
そりゃ確かにいつも、ってわけじゃないけど、やってるけど。
でも、それは誰にも見られてないからできる…って。
……でも。
今しなきゃ、こいつの機嫌はますます悪くなるばかりだ。
あー、最低。
くそっ!!
見てろよ、欅。
俺の意地を見せてやる。
「エンデュランス…」
半ばヤケクソの気分も混ざっていたが、優しくそっと肩に触れる。
ピクリと反応する体。
後ろから抱きしめて後頭部に唇を落とした。
「好き…」
俺は、ゆっくりと顔を近づける。
肩から頬へ指を滑らせて、俯いたままの顔を持ち上げて口付けた。
「好き、エンデュランス…」
いつの間にか俺の後頭部に回っていた腕が頬にかかっている。
「ボクも大好きだよ…ハセヲ」
ついさっきまでのどんよりした空気はどこへやら、エンデュランスはニコニコと笑っていた。
ところが…。
「じゃあ、ハセヲ。口あけて…」
奴の口から出てきたのはそんな言葉だった。
「…っだから!!」
「さっき言ったよね……今回だけだって」
懲りずに玉子焼きを唇に押し付けてきた。
許可してしまったものは仕方ない。
俺は黙って口を開け、玉子焼きを頬張った。
「美味しい…?」
「さぁな。わかんねぇよ」
頼むから、変な気は起こさないでくれ。
機嫌良く笑うエンデュランスを刺激しないように曖昧に笑う。
「ハセヲ…そこ、玉子焼き…ついてるよ」
「へ…?」
指差すほうへと手を持って行こうとしたが、その前にエンデュランスが顔を寄せてきた。
「ここ…」
ぺろり。と唇の端を舐められた。
「おまっ…!!」
そのまま押し倒されて口付けられた。
「…っ……めろ…」
乱れた呼吸を整えながら抵抗をするが、PCの体格上全く歯が立たない。
それでも、暴れる俺の耳に衝撃的な言葉が飛び込んだ。
「どうして…?ボクはかまわないよ…」
「え…?」
まさか。
まさか…こいつ……。
「見られていても、かまわないよ…」
「知ってたのかよ!!」
「なんとなく、ハセヲの態度で…」
「なら…」
「駄目。ボク以外の事考えたお仕置き…だよ」
そう言ってエンデュランスは更に深く口付けた。
……結局、俺は逃げる事が出来ずエンデュランスと欅の目的を達成させてしまった。
「欅様ご機嫌ですね。何かありましたか?」
「ちょっと、ね♪」
鼻歌を歌いながら「観察日記」と書かれたノートを手に欅は満足げに笑っている。
楓もその様子につられて優しく微笑む。
「さぁって、次はどれにしようかな〜♪楓はどれがいいと思う?」
俺が『次』を知るのはそれから暫く後の事だが、それはまた別の話。
FIN
エンデュランスは何故そこまで玉子焼きに執着するのか。
書いてて自分でもよく解りません(笑)
だってエンデュランスが勝手に暴走しちゃったんです。