リアルのお話です。ちょっぴり切なく。そして甘いです。薫×亮。
























D E T E R I N A T I O N






いつの間にこんなところまで来てしまったんだろう。



深くまで入り込んできた彼は、もう二度と出て行かない。










「ミア…。こんなところにいたんだね」




見た事もない笑顔。




「嬉しいよ…」




急に遠くなった。




「エンデュランス…」




小さく呟く。




「ミア…」




ぎゅっと拳を握る。

胸が痛い。

泣きそうになる。
 




…俺に、気づけ。








なあ、気づけよ。

「ハセヲ」

かけられた声に反応する事無く、ハセヲは歩き続ける。

「おーい、ハセヲくん〜?」

腕を掴まれて漸く立ち止まったハセヲは、虚ろな目で声の主、クーンを見つめた。

「…」
「…。じゃなくて、ちょっと来いよ」

強引にハセヲの腕を引っ張って、人気のないところまで連れて行った。


「…何」
「何じゃないだろ?大丈夫か」
「別に、何も心配されることなんて無い」

「寂しい事言うなよ。そんな顔してほっとけるわけないだろ」
「クーンには関係ない」

そう言ったすぐ後、温かいものに包まれる。
それは、クーンの腕の中。

「…違うだろ?」

普段はうるさいくらい明るいのに、今は優しく包み込むような声でハセヲに語りかける。そのトーンにハセヲは『あの人物』を想像してしまう。
「……」
「止めとけよ、苦しいだけだぞ」
ハセヲは激しくクーンを押しのける。

「…止めてくれ」

その声で、その優しい声で、そんな酷い事を言わないで…。

「お前…解って……」

クーンは少し考えてから、溜息を吐いた。
「…お前がそう決めたんなら、俺がとやかく言うつもりはない」




そうだよ、解ってた。あいつはまだ依存してる。昔の面影を追って。

でも。

もうそいつは居ないから。

居なかったから、俺は平気でいられた。


でも。

でも。



本当は、ずっと近くにいたんだ。





なあ、お前は。






もう、俺がいらなくなったの…?






「ハセヲ」

クーンがそっとハセヲの頭を撫でる。

「でも、お前の事を心配してる奴がいるってこと忘れんなよ」

「………」






でも、この手はあいつの手じゃない。

俺が触れて欲しいのは…あいつだけ。

メモリからある人物を探し出し、通話ボタンを押す。

暫くのコールの後囁くように『もしもし?』と聞きなれた声が出た。
それだけで涙が出そうになる。

「あ…」
『…亮?』


不思議そうに囁く声。
 

「あ、あのさ。今いい?」
『うん。どうしたの?』


白い吐息が亮の口から吐き出される。


「…これから行ってもいい?」
『…え?でも、もう終電が近いよ?』


雪がちらつきだす。
暗闇の中、亮は懸命に言い訳を考える。
粉雪が頬に、髪に降りかかる。
 

「あ…そ、そうだよな…」
『…あれ?』

タプン。と水音がする。
きっと先日買ったウォーターベッドの音なのだろう。と想像をする。


『ねえ、亮…。雪だよ』
「ああ…ほんとだな…」
『亮のところも降ってるの…?嬉しいね。ボク達同じ雪を見てるみたいだね…』
「…うん」


些細な言葉だった。
けれど、亮にとっては今は、何よりも幸せな言葉だった。


  『…綺麗だね』


不意にカーテンが開けられ、薫が姿を現す。


「あ…」 『ボクね、夜の雪って好きなんだ…』


窓が開いて薫の手が雪に触れようと差し出された。


『夜の雪はね、どんなに暗くても闇に染まらずにいるんだよ…。闇の静寂よりももっと静かな静寂を持ってきてくれるんだ…。あの時のキミみたいに…ね』

「あ…の時?」

『エルディ・ルーでの事だよ…。全てを諦めて闇に染まったボクに、優しく降ってきてくれたのがキミという雪だったんだ…。眩しくて、でも綺麗だったよ……』





幸せそうに微笑む薫。


その笑顔は誰の事を想ってる?



俺?それとも…。






「なあ、薫…」
『なぁに?』










俺とミア、どっちが大事?








そう言おうと口を開いた時。
一台の車が亮と薫の間を割くように走り抜けていった。


『……同じ、音?』
「あ…」



そう言った瞬間、目が合った。

亮は電柱の影に隠れるようにして薫を見つめていた。
髪や肩に降り積もった雪がどのくらいそこに立っていたのかを容易に想像させた。
 

それは一瞬の事だった。




亮はそのまま逃げるようにその場を走り去った。




「亮!!」




通話が途切れ、薫はすぐに家を飛び出した。


「…亮、待って!!」

ちらつく粉雪が視界を遮る。
遥か前方の亮はどんどん人気のない方へと走っていった。

途中で何度か転びそうになったけど、どうしても亮を見失うわけにはいかない。

薫はただひたすら亮を追っていた。



















「亮!!」
やっと捕まえた彼の体は酷く冷え切っていた。掴まえられた瞬間亮は大人しく立ち止まり、俯いたまま体を震わせていた。

深夜の公園はしんと静まり返り、雪だけがさらに静寂を運ぶ。

体を振り向かせて、両手で頬を包むと亮の目から涙が零れ落ちた。
「…来てたんだね。どうして言わなかったの?」
「………」
亮は何も答えない。ただ、涙が頬を伝うだけ。目も合わせようとせずにぼんやりとどこかを見ていた。

「こんなに冷たくなって」
暖めるようにぎゅっと亮を抱きしめる。けれど、亮は無反応のままただ立ち尽くすだけだった。




「…亮」

口付けようと顔を近づけた瞬間に亮は我に返ったかのように激しく薫の体を押しのけた。

「亮…?」





後退りながら、涙を零す亮。

後を追うように、亮に近づく薫。






「く…来るな」


「どうしたの、亮?」











やめて、止めて、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ…!!














「ミアを見る目で俺を見るな!!」








「…え?」

「あ…」


一度出てしまった言葉はもう二度と戻る事はなく。

薫の目は驚きに見開かれた。


「ミアって…」

「…ッ」

逃げようとする亮を今度は易々と捉えた。

「亮…言って?ミアがどうかしたの?」

「お前…は、俺よりもミアのが…いいんだろ…」
「…どうして?」
「っだって、お前っ…あの時!!」

「亮」
落ち着いた優しい囁きと共に繊細な手が亮の頭を撫でた。



「俺…俺の事、もう…いらないんだろ…?」


「亮…」


「ミアが、傍にいれば…お前は、それで…」











「亮の方が大事だよ」











「ミアよりも、亮がずっと、大事」 











  亮をじっと見つめるその目は少しも揺るぎがないものだった。











「ボクは、もう迷わない」
 










それははっきりと意思を持った声で。
こんな彼の声は初めてで。

「もう決めたんだ…」

涙で濡れた頬を包み込みながら薫はゆっくりと話し続けた。

まるで、幼い子供に言い聞かせるように。



「絶対に離れない。離さない」






「キミが嫌だって言っても、ボクはこの手を離さないから…」


そしてまた、優しく抱きしめられる。















「亮、愛してる」












それは甘く亮の心に染み渡る。












「愛してる……愛してる……愛してるよ」












何度も。





何度も。





繰り返す。












「亮、愛してる」












囁く声は甘くて。












「愛してる」












ねえ、なんで…?












「亮…愛してる……」












「ど…して…?」












どうして、そんなに愛してるって言うの…?












「あと、何回言えば安心できるの……?」












「あと何回言えば、信じてくれるの……?」





















薫の目は真っ直ぐ亮を見つめていて。












亮は目が逸らせなかった。





愛しさが増して、心が押しつぶされそうになった。












「……かおる…」






囁くような、震えるような呟きの後。












薫の背中に細い腕が絡まった。


少しぎこちない動作だったけれど、亮の腕は確かに薫の背に回されていた。












「亮、愛してる」


その言葉の後に、そっと口付けられて。

亮は静かに眼を閉じた。








重なる唇は冷たくて。








でも、仄かに感じる温かさ。
 







真っ白な粉雪が静かに降り積もる。








幾つも、幾つも。








暗闇に染まる事なく降り続ける粉雪はどこまでも白く。








二人を優しく包み込んだ。














ちょっぴり切な系でも最後は恥ずかしいくらい甘々にしてみました。
薫と亮は精神的に深〜く繋がってるっていうのが私の理想なのですVv
ところで最後あたりの薫の口説き文句はなかなかスゴイなぁ…。そして、亮君泣きすぎ。男の子なのに。
ごめんね。泣かしてばっかで(笑)

因みに冒頭部分はロストウェポンイベントの部分です。解りにくくてごめんなさ〜い。