薫亮。平日の亮。
























L a n g u i d






机に伏したまま見上げた空はどんよりとした灰色でのっぺりと空を覆い尽していた。
雨が降るかもしれない。
頭の上を通り過ぎる初老の教師の声を余所に俺はそんな事を思った。



木曜の午後。
昼飯後一番の授業は気だるい。
昼寝をしてくれと言わんばかりの気温。
子守唄にはうってつけの古文は、魔法の呪文のようだ。
おまけに、頭がぼんやりする。
昨日裸のまま寝たせいだ。




風邪、ひいたかな……あぁ、そんな事より。








腰、痛ぇ。








昨日、突然薫が家に来た。
理由は判らない。
突然押しかけられて、押し倒された。
抵抗すれば良かったんだろうけど、切羽詰ったような薫の目を見たら、そんな気は失せた。
あいつもあいつなりに悩んでいるのかもしれない。
理由なんて絶対言わない奴だけど、それでもこうやって俺に何かをぶつける事で解決できるなら、それでいいと思う。



『僕の隙間、君で埋め尽くしたいんだ』



おぼろげだったが、確かそんな事を何度か口走っていた。
ふと左手首に目をやれば、くっきりと赤い痣が浮き上がっていて思い出したらひりひりと痛み出した。
左だけではない。右手首も縛られて、ただ薫の気が済むまで抱かれ続けた。



『ねぇ……逃げないで。お願い、僕の傍から居なくならないで』



居なくなったりしねぇよ。
そう言いたかったけど、口は塞がれていて言葉を紡ぐ事も出来なかった。
馬鹿だよな。
否定する言葉を訊きたくないんだろうけど、肯定してやる言葉も訊けないんだぜ。
嫌だったらとっくに逃げてる。
そんな事にも気付かないなんて、お前は……俺を好きだとか言っておいて。








結局。








大事な事は何にも見えてないんだな。













だから、悔しいから絶対に言ってやらない。



苦しめばいい。
手に入れている俺の心をいつまでも探せばいい。


お前が、真実に気付くまで傍に居てやるよ。







どんよりとした空から一粒、雨が降り落ちた。















大好きとか言っておきながらその実全然相手の事を見ていなかったり。
何も言わないけど大好きで仕方なかったり。
そんなかみ合っていない二人の距離感が好きです。
違う見方をすれば両思いなのに片思いな二人です。
2007.11.28 UP