リアルのお話です。薫×亮。
水 蜜 桃
初夏の日差しは穏やかで、昼下がりの部屋にも柔らかく差し込んでいる。
寝巻姿でベッドに沈んでいた薫の部屋の扉が開かれたのは平日の午後の事だった。
遠慮がちに顔を覗かせたのは、薫が一番予想しなかった人物だった。
「……どうしたの?学校、だよね?」
ちらりと壁に掛かったカレンダーを見てから、薫はそう問いかけた。
何があっても学校だけは休まない彼が、平日の、この時間帯にこの場所にいる事が不思議でならなかったのだ。
「風邪、大丈夫か?」
制服姿の亮は薫の質問には答えないまま、ベッド脇まで歩み寄る。
カッターシャツが日差しを反射して更に白く輝き、その先から惜しげもなく曝け出された白い肌をより薄く見せていた。
「夏服だ…」
「七月から、変わったんだ」
首元で確り締められたライトブルーのネクタイが夏らしさを感じさせらたけれど、以前に見たネクタイは濃紺だったのを思い出し薫はまた小首を傾げた。
「ネクタイも、変わったの?」
「うん…夏場はこの色」
「そうなんだ。ボクの学校はね、ずっと同じ色だったよ…」
「そうか」
言いながら、亮は薫の額に手を当てた。
少しだけひんやりとした体温が心地良く、薫は目を閉じた。
「ちょっと高め、かな」
すっ、と離れた手を名残惜しむように静かに目を開けると、亮は薫の眼前に薄桃色の球体を差し出した。
薄い短毛に包まれたそれはすっぽりと亮に手に納まり、ふわりと甘い芳香を漂わせていた。
「桃?」
「水蜜桃って言うんだ。食べやすいと思うから……持って、きた」
急に頬を赤らめ、俯いたままの亮を見て薫にもようやく判った。
亮は学校を早退して、ここまでやってきたのだと。
彼は、放課後に寄るつもりだったのだろう。
それは、薫の為に用意された水蜜桃を見れば明らかだった。
けれど何らかの理由でそれは午後に繰り上がったのだ。
その答えも、聞かずとも薫には検討がついていた。
薫の質問に答えなかったのも、彼は単に恥ずかしかったのだ。
『心配で放課後まで待ちきれなかった』という事を告白するのが。
両手で受け取ると短毛に覆われた柔らかい感触が掌に広がる。
「ありがとう…とっても嬉しいよ、亮」
そう言って微笑むと、亮は更に俯いてしまった。
けれどそれは、嬉しい事を顔に出す自分が恥ずかしくてそうしているのだと、薫には判っていた。
「…っ何笑ってんだよ、食えよ…」
「うん」
爪を立てて亀裂を入れたとたん、じわりと果汁が溢れ、薄皮を剥いていくと、更に芳香が強く漂った。
白い実から溢れた果汁が指先を伝い手首まで滴る。
がぶり。とひとくちほおばると、あまい、甘い、果汁が次々と溢れてくる。
甘さと程好い冷たさが口内を潤し、それは唇をも濡らした。
ふと、亮を見遣ると、その視線は薫の指先をじいっと見つめたままぴくりとも動かなかった。
「亮、どうしたの?」
「別に。それ…うまい?」
「うん。亮も食べる?あ、でも風邪、うつっちゃ…」
言い終わらないうちに、亮はその右腕を取って、手首にまで落ちた蜜を、舐めた。
その仕草は猫の様でもあるし、時に垣間見るもう一人亮の様でもあった。
「りょ…りょう?」
戸惑う薫を尻目にいつの間にか指先へと移動していた舌は、濡れた唇へと移動する。
ぴちゃ、と濡れた音が小さく響き、薫の体温はどんどん上がってゆく。
「っ…」
力の抜けた指先から水蜜桃が転がり落ちた。
「あ…」
それは亮の腕を掠って、右の太腿に着地した。
べたついたそれに亮は顔を顰める。
「うわ、最悪…って、何して…」
呟く亮の右腕を取り、まるで先程のお返しと言わんばかりに薫が蜜を舐め取った。
「今度はボクが舐めてあげる」
そう低く囁き、慌てる亮を押さえ込み、唇を太腿へと降ろしていく。
水蜜桃の香りに酔いしれたまま、二人はベッドへと沈み込んだ。
日差しを浴びたそれはきらきらと煌いて、更に甘美な世界へと誘う。
それは、初夏の昼下がりの出来事。
純文学ちっくにしかたったのですが三行で挫折(笑)
フルーツは何処か淫靡です。果汁を垂らして舐めるっていうのはもはやお約束ですよね。
お約束って言うかありがち。
何か途中まで書いてて亮×薫?!という感じでしたが最後には元に戻ってくれました。
水蜜桃は『したたるほどの果汁と甘味が強いのが特徴』らしいです。
これだけで色んな意味の妄想を掻き立てられます(妄想炸裂!!)
2007.07.18 UP