エンハセ。二人が上手く纏まるまでのお話。松・真吾視点。
























T R U T H / O R I J I N / 0 






流れに逆らわずに生きるほうが楽だろ?







あるがままを受け入れて認めてしまえば、それで上手くいくんだ。








なのにお前はどうしてそこまで拒絶する?












答えなんて既に解っているくせに。















ー 袋 小 路 ー






その日、ダチがレインボーブリッジを見たいと急に言い出した。
晴れていて気分も良かったし退屈だったから、学校をフケてそのまま台場までバイクで疾走した。



到着する頃にはもう陽が沈みかけていて辺りは人が疎らに通り過ぎていた。
レインボーブリッジが見える公園の傍で缶コーヒーを飲んでいた時だった。



「亮?」

過ぎてゆく人の中に見覚えのある後姿が映り、考えるよりも先に口が出ていた。
人違いかもしれない。そう思ったがその人物はこちらを振り返った。
リアルで会うのは久しぶりの友人三崎亮だった。
相変わらずお堅そうなブレザーとネクタイを真面目に着こなしている。

「九藤?何やってんだよ」

俺はバイクを小突いて笑った。

「見りゃわかんだろ、ダチとツーリング」

亮はチラと時計を見て何か言いたそうな視線を寄越した。
大方、学校はどうした的な事だろう。
変なとこで律儀な奴だから。

「お前、学校は?」

「フケた」

やっぱり。という文字が亮の顔に浮かび上がる。

「そういうお前こそ何やってんだ?観光名所巡りでもやってんのか?」

「ああ…」

少し口篭ってチラリと目線を後方に向ける。その先にはやたら線の細いどっかの雑誌に載っていそうな美形の男が恨めしそうな顔でこっちを睨みつけていた。
亮が手招きをされるとその男の表情は陰気くさいものから明るくなり、一目散に走ってきた。

この感覚…デジャヴ?確かどっかで…。

その答えはすぐに解った。

「エンデュランスだよ。リアルでは一ノ瀬薫って言うんだけど」

亮の背後にぴったりとくっついて隠れるようにして(隠れていないが…)、一ノ瀬薫はまた恨めしい顔で俺を睨んでいた。

「亮…誰…」

ぼそりと呟く声はよく通っていたが陰気くさい。

「松だよ。前に噴水のとこで会っただろ?」

「…知らない……」

しゅんと項垂れる一ノ瀬に亮は何やら小声で話しかけている。

「…うん……わかった…亮がそう言うなら……」

一ノ瀬の手が亮の頬にかかり愛しそうに撫でる。
亮はただ少し笑ってされるがままになっていた。

「おい、シンゴ。あいつら…」

いつの間にか傍に来ていたダチが耳打ちする。
通り過ぎる人もチラチラと二人を見ながら足早に去っていく。


誰が見ても恋人同士にしか見えない雰囲気が辺りを包む。



やばいと感じた。

想像していたよりも亮は依存度が強かった。

以前見た時より確実に一ノ瀬にハマっているのが見て取れる。





「亮、ちょっといいか」

「…薫、飲み物買ってきてくれる?」

「オレはその辺ぶらついてるよ。終わったらデンワして」

いつもとは違う少し真面目な顔つきになった俺に、ダチは足早に去り、亮は適当な言い訳を並べて薫をその場から離れさせた。


「薫って面白いよな。PCもリアルも美形ってある意味すげぇよ…」

「そうか…?俺は元々そういうのあんまり気にしねぇからな。それがThe Worldやり始めてからはますます強くなった。大人だって思ってた奴がとんでもなく子供だったり、強いって思ってた奴が本当は弱かったり……見た目なんて当てになんねぇよ」

「それって……」

空になった缶を足元に置き、煙草を咥える。

「煙草、まだ止めてなかったのかよ」

「なかなか止めらんねぇんだよ…………そうだよ、榊さんの事だよ」

暗闇の中にライターの灯りと共に紫煙が舞った。

「正直ショックだったな。でもなぁ、いつまでも否定してたって事実は変わんねぇ」

吐き出した紫煙が風に流れて消えてゆく。

「認めるのが一番なんだよ。それが自然だろ?」






「お前はどうなんだ?…どうしたいんだ」

「やけに熱く語るんだな」

「話を逸らすな。いいか、お前だから言ってるんだ。じゃなきゃこんな面倒くせぇことに自分から首突っ込まねぇよ」

「………」

「だんまりかよ……いつまでも知らないフリが通ると思うなよ。相手がアイツじゃなきゃとっくに気付かれてるぜ」

ぎゅっと吸殻を空き缶に押し付けていると、小さく亮が呟いた。



「俺は……強くないんだ」

「だから守ってくれる相手じゃなきゃ嫌だっていうのか」

「俺は…ッお前とは違う!……それに…独りの辛さなんてお前には解んないだろ…」

「解んねぇな…」

実際俺と亮の環境はかなり違っているし、俺の回りにはいつも家族やダチがいる。
正直孤独なんて感じた事は生まれて一度もなかった。
だから亮のようなタイプは苦手だったし、関わる事もないと思っていた。


こいつや、一ノ瀬はどんな気持ちで独りの時間を過ごしてきたのか。
きっと俺には一生解る事はないのかもしれない。
その辛さや、淋しさを。


「薫も、俺もずっと独りだった。だから…これ以上あんな思いはしたくないし、させたくない。でも……俺は薫を救ってやれるけど、薫は俺を救えない……どうしようもないんだ」

「なら、なんで救った?!」

この期に及んでまだ逃げようとする亮の胸倉を掴む。

「……自分でも、わからない」

「ハッ!!嘘付けよ。お前が言えねぇんなら俺が代わりに言ってやるよ」
「止せ!」

その時、初めて亮が狼狽えた。けれど、俺はかまわず亮に聞こえるように声を張った。

「お前はな、あの男が」

「止めろ…止めろ…」

苦しげに表情を歪め、きつく目を瞑る亮に、俺は真実を告げた。






「好きなんだよ。お前自身の意志を覆すほどな」





「違う…違うんだ…そうじゃない…俺は…」


必死に言い訳を並べ立てて皹の入った『今』を修復しようとしている。
けれど壊れた器はもう、元には戻らない、そこに注がれた水もまた隙間から零れ落ちる。
亮の心を占めていた感情の蓋はひび割れて、押し込めていた感情は溢れ出すだろう。

それが、正しい感情の在り方。

それをどうするかは亮次第。

その場に座り込んだ亮はがたがたと震えだす。

「否定するならしてみろ。それをお前が選ぶんなら俺は何も言わねぇ。だけどな…」


しゃがみ込んで亮の目を射抜くように睨みつけた。



「どっち選ばないなんて中途半端なことすんじゃねぇ」


遠くから一ノ瀬が駆けてくる。
入れ替わるように俺は立ち上がった。



ここから先は二人の問題。

俺が口出しする問題じゃない。


「亮、現実を受け入れろ。じゃなきゃ切れろ」


それだけ言って亮に背を向ける。

一ノ瀬が目を丸くして亮に駆け寄る。

「…どうしたの、亮?」

「…………」

ぎゅっと一ノ瀬にしがみついた亮は何も応えずにただ震えているだけだった。
それを優しく抱きとめ一ノ瀬は俺を睨みつけた。

「亮に、何言ったの」

「…何も。知りたきゃ亮に聞くんだな」


今度こそ背を向けて歩き出す。背中に、おそらく一ノ瀬のものだろう刺々しい視線が突き刺さる。

そんな視線を気にすることなく俺は歩き続ける。夜の海がレインボーブリッジの光を反射させていた。


















Game Over or To be Continud...?











やたらと熱血な真吾ですね。
真吾はきっと友達も多くて亮みたいに不器用タイプの友人ほっとけないんじゃないかと思われます。
本編でも述べてますが真吾は友達以外が苦しんでいてもどうでもいいや的な感情を覚えていそう。
なぜなら不良だから(笑)

で、肝心の薫と亮ですが。あんなにもラブビーム出してる亮に薫は何故気付かないかというと。

薫は亮を好きすぎて亮の気持ちに気付かなかった。
薫は亮の全てを受け入れるので本質を見ていない。
亮の言うことに全て従うので疑わない。

てな理由です。
こりゃ真吾も見ていてやきもきするでしょうな。

今回あとがきが長くなってしまいました。
でもこれだけは主張したかったのぅ〜!!(本編で書けよ、私!!)