エンハセ。二人が上手く纏まるまでのお話。松・真吾視点。
T R U T H / O R I J I N / 0
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それは蜜だと思う。
甘い、甘い薔薇の蜜。
その匂いに誘われて蝶はひらひらと近づく。
何の抵抗もなく。
そして、蝶はその蜜を含む。
甘い、甘い薔薇の蜜。
一度知った甘い蜜の味は決して忘れることができない。
それは良いことなのか……それとも……
ー
変
化 ー
「よぉ、ハセヲ」
暇つぶしに巡回していたマク・アヌの噴水場でハセヲを見かけた。
ぼんやりと水面を眺めて物思いに耽っていたのか、声をかけると大きく肩がはねた。
「松か」
「なんだぁ?俺じゃ不満だってのか」
「そんなんじゃねぇ…」
いつものようにふざけた会話をけしかけたが返ってきたのは予想外の言葉だった。
そんなふうに切り返されるのははじめてで後を紡ぐ言葉が出てこず、沈黙が流れる。
「そういや、オマエと会うの久しぶりだな」
口火を切ったのは俺。
「そうだな……一ヶ月くらい、か?」
ーその間に何があったんだか…ー
ハセヲは変わっていた。
それは誰が見ても明らかだろう。
無防備な雰囲気がハセヲを包み込んでいて、以前のとっつき難いオーラはどこにも見当たらない。
これが死の恐怖と呼ばれた男なのか?
あれほど強烈な意志を持っていたハセヲを変えたものが何なのか。
「ハセヲ……お待たせ…」
繊細そうな声が背後から降りかかり、振り向くと長身の男がこっちに向かって歩いてきた。
優雅な足取りでハセヲの隣に立つ。
やたら線の細い美青年で、どう見てもハセヲと並ぶと不自然だ。
「…ん?こいつどっかで…」
しなやかな動作でハセヲに纏わりつく男を記憶の中で捜す。
「お前知らないのか?元紅魔宮のチャンピオンのエンデュランス」
「悪ぃ。アリーナとかあんま興味ねーからな。…あぁ、でも顔は見たことあるぜ」
そうだ。確か、前にどっかのギルドがこいつのスクショばっか売りまくっていた。
押し売りに遭いそうになって一喝した覚えがある。
「ハセヲ…」
背後霊のようにハセヲの真後ろに立ったエンデュランスは甘えた声でハセヲに擦り寄る。
ーオイオイそんな事したら鉄拳喰らうぞー
けれど、殴るどころか引き寄せられるようにハセヲはエンデュランスを見上げ、二、三言会話を交わしてハセヲは頷きくるりと俺に向き直った。
「悪い、俺達もう行くし」
「おう…あ、ちょっといいか」
手招きでハセヲを呼びつける。
エンデュランスには聞こえないように小声で話す。
「変わったの、アイツのせい?」
「……何言ってんだ?」
気付かないふりをしているのか、それとも本当に気付いてないのか。
どちらにしろハセヲがこうも変わったのはあの男が原因だろう。
「…ま、いいや」
今が悪い方向に向かってないのであれば俺が口出しすることではない。
「…ハセヲ……」
いつの間にか近づいてきたエンデュランスがハセヲの背を押した。
「…じゃあな」
肩を並べて去ってゆく二人を見つめながら思う。
悪い方向に進むなと。
この時、無理にでもハセヲに解らせてやるべきだったと後で後悔することになるなんてまだ俺は気付いていなかった。
Game Over
or
To be Continud...?
また短くなってしまった…。
やっと出てきた松。彼はハセヲとかなり仲良しで頭の切れる設定にしてます。
次回から松が大活躍の予定です。
エンハセメインなのに、私は松が大好きです。